バイオ医薬品と医薬品市場を知ろう
VHTの核となる製品、バイオ医薬品
HIRA (@Open_JP) と申します。
今回の記事では、海外ETFのひとつであるバンガード・米国ヘルスケア・セクターETF(VHT)の関連知識として、バイオ医薬品について述べたいと思います。構成の都合上、過去記事を再掲している部分がありますが、ご容赦いただけたらと思います。
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バンガード・インベストメンツ・ジャパン株式会社
バンガード・米国ヘルスケア・セクター ETF (VHT)
2017年12月31日現在
VHTの概要
本題に入る前にVHTについて再確認したいと思います。VHTは、海外ETFのひとつであり、ニューヨーク証券取引所に上場されている海外ETFのひとつです。よって買付は、各証券会社の海外株式の専用口座より行うこととなります。ベンチマーク | MSCI USインベスタブル・マーケット・ ヘルスケア 25/50 インデックス |
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経費率 | 0.10% |
配当スケジュール | 四半期毎 |
ETF純資産総額 | 71.63億米ドル |
ファンド純資産総額 | 81.34億米ドル |
設定日 | 2004年1月26日 |
ティッカー・シンボル | VHT |
上場取引所 | NYSE Arca |
ETF純資産総額は約8000億円($1=100円)と国内のインデックス型の投資信託におけるマザーファンドを上回る規模です。その上、投資信託の信託報酬にあたる経費率は0.10%。国産の投資信託で同水準の商品は存在しておりません。投資の本場、米国ならでは金融商品です。
VHTのベンチマークについて
連動対象(ベンチマーク)であるMSCI USインベスタブル・マーケット・ヘルスケア25/50インデックスは、米国のヘルスケア・セクター株式銘柄で構成されています。
このセクターは、ヘルスケア機器およびヘルスケア用品を製造する企業またはヘルスケア関連サービスを提供する企業、医薬品およびバイオテクノロジー製品の研究・開発・製造・マーケティングを主たる業務とする企業で構成されています。
大型株、中型株、小型株を含んでおり、対象セクター全体を幅広く網羅しています。その構成株式銘柄数は372銘柄、時価総額の中央値は761億米ドルとなっております。文字通り、米国のヘルスケア関連企業をまとめ買いできる ETF となっております。
私も投資戦略としてセクター戦略を採用し、VHTをポートフォリオに組み入れております。
VHTの産業サブグループ別の構成比率
医薬品 | 30.4% |
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バイオテクノロジー | 23.0 |
ヘルスケア機器 | 18.3 |
管理健康医療 | 12.4 |
ライフサイエンス・ツール/サービス | 5.8 |
ヘルスケアサービス | 3.1 |
ヘルスケア・ディストリビュータ | 2.3 |
ヘルスケア用品 | 1.9 |
ヘルスケア施設 | 1.5 |
ヘルスケア・テクノロジー | 1.3 |
産業サブグループの上位は医薬品とバイオテクノロジーとなっております。実際には、バイオ医薬品を製造する企業がバイオテクノロジーに分類されていたり、医薬品に分類されている企業がバイオテクノロジーを用いて研究開発を行い、バイオ医薬品を製造販売していることは、周知の事実です。
約60%:医薬品
約20%:医療機器
約20%:その他
実際の事業内容を勘案して、ザックリ把握されるのがよろしいかと思います。
産業サブグループの構成比率から、米国のヘルスケアセクターの主役が医薬品であることがわかります。稼ぎ頭となる製品こそ、圧倒的なバイオテクノロジーの技術水準をもって創薬されるバイオ医薬品なのです。バイオ医薬品とは何か。ポイントを絞って述べていきたいと思います。
VHTの保有銘柄については、以下の記事にまとめております。
上位50銘柄を一覧してみよう
バイオ医薬品とは?
バイオテクノロジーにもたらされた新領域
塩基配列を解読するシークエンス、遺伝子組み換え、DNAを増幅するPCR法という「バイオテクノロジーにおける三種の神器」がそろった1980年代、それまで生体からわずかしか得られなかった有用なタンパク質を、大腸菌や酵母に大量生産させることが可能になった。その一部は医薬品に応用され、「バイオ医薬品」という新たな領域をもたらした。この記事が執筆された2011年頃こそ、低分子医薬品からバイオ医薬品へ、医療用医薬品の主役が交代しつつあった過渡期といえるかもしれません。
出典:新たなるバイオ医薬品開発—最前線レポート Nature 2011年6月30日号
低分子医薬品の特徴
医薬品は、仮に有効成分が発見されたとしても、工業化して大量生産を可能にしないことには、製造販売できません。英国アレクサンダー・フレミング博士によって世界初の抗生物質、ペニシリン(penicillin)が発見されたのは1928年ですが、医療用として実用化されるまでに、10年以上の歳月を要したことが知られております。(ちなみに製法にも特許が存在します。物質特許よりも後で取得するケースが多く、こちらがジェネリック医薬品にとって参入障壁になることがしばしばあります)
従来より製造販売されてきた低分子医薬品は、化学合成によって大量生産がなされてきました。まさに化学工場のイメージそのままです。
低分子医薬品は、バイオ医薬品と比して低分子といわれるだけあって、分子量が小さいことが特徴です。モノとして小さいのです。分子量が小さい物質は、比較的安定であることが多いため、錠剤やカプセル剤にできるものが多くなります。抗菌薬、鎮痛剤、降圧剤といった、いわゆる飲み薬のほとんどは、化学合成で作られた低分子医薬品です。
出典:「バイオシミラーの現状について」厚生労働省 平成27年7月23日
バイオ医薬品の特徴
バイオ医薬品とは、巨大な分子量をもつタンパク質などを有効成分とする医薬品です。しかし、巨大な分子量をもつタンパク質は化学合成によって大量生産することはできません。そこで発見された生命科学のブレイクスルーが、微生物や細胞の力を借りて大量生産するという方法、いわゆる遺伝子組み換えと呼ばれるテクノロジーです。
生産したいタンパク質の遺伝子(設計図)を、微生物や細胞に組み込み、大容量の培養棟(Bioreactor、バイオリアクター)にそれらを無数に浮かべ、生命活動を維持させつつ、目的のタンパク質を生産していきます。培養液に目的とするタンパク質がたくさん生産された後、これを精製することで、製品とするのです。
バイオ医薬品は、有効成分となるタンパク質を、この技術を活用して大量生産します。前述の通り、バイオ医薬品は分子量が大きいことが最大の特徴です。それゆえ不安定であり、冷所保存の注射剤となることが多いのです。また微生物や細胞にお任せして作ってもらうので個体差も発生します。培養する環境の変化も影響を与えます。まさに生き物です。医薬品の品質を保つためには、非常に高い技術力が必要となるのです。残念ながら、バイオ医薬品を生産できる国内の製薬企業はごく少数であり、大半のブランドは欧米からの輸入品となっております。
出典:「これだけは知っておきたいバイオ医薬品」一般社団法人 くすりの適正使用協議会
バイオ医薬品の市場浸透
バイオ医薬品の存在感は増していく
先日の記事でも述べたとおり、超大型バイオ医薬品の新規市場導入が続いていきます。また既存のバイオ医薬品の市場浸透も着実に進捗すると考えられており、全世界の医薬品に対するバイオ医薬品の市場シェアは、2016年の25%から2022年の30%まで、上昇すると見込まれております。Evaluate の最新のコンセンサス予測によると、2022年には医薬品TOP100のうち52% がバイオ医薬品になると予測されております。むしろ、これからが本番です。これは既存の低分子医薬品が先に特許切れとなる一方で、新しい画期的なバイオ医薬品が次々に承認されるからと考えられております。
出典:EvaluatePharma® ワールドプレビュー2017 2022年への展望 第10版
2017年6月(日本語版 2017年10月)
開発パイプラインとバイオ医薬品
バイオ医薬品の圧倒的な存在感
ご存知の通り、製薬企業に投資をする場合、財務指標は参考にしかならない(はるか昔に投じた研究開発費がいま回収できているだけである)ため、開発パイプラインを評価しなければなりません。これが将来の製品であり、サービスであり、キャッシュフローの源泉になるのです。開発パイプラインを見ずに、高い利益率や高い配当金に騙されて投資をしてはいけません。これについては以前の記事に持論を述べております。製薬会社のビジネスモデルについては、以下の記事にまとめております。
製薬会社の社員は個別株を推奨せず
製薬会社のポートフォリオ、開発パイプラインにおいてもバイオ医薬品の存在感は圧倒的です。世界の製薬企業における開発パイプラインの"正味現在価値"(Net Present Value)のTOP20を以下に示しております。
ここではMAbに注目してください。MAbとはバイオ医薬品の有効成分の一つであるモノクローナル抗体のことを指します。様々な会社においてバイオ医薬品が今なお開発中であることが分かります。これらが近い将来の医薬品市場を牽引していくのです。
出典:EvaluatePharma® ワールドプレビュー2017 2022年への展望 第10版 2017年6月(日本語版 2017年10月)
新しいバイオテクノロジー
そして、従来のバイオ医薬品に加えて、2つの開発品"Anti-CD19 chimeric antigen receptor (CAR) T cell therapy"がランクインをしております。新しいバイオテクノロジーの果実です。今後は細胞療法にも注目せざるを得ません。常に新しいバイオテクノロジーを理解し、その価値を推定し、将来得られるキャッシュフローを算出できないことには、本セクターへの個別株投資は困難を極めるでしょう。
血液のがん、7~9割に効果 「CAR-T」免疫細胞療法
米国で承認された「遺伝子改変T細胞療法」と呼ばれる新しいがんの治療法が注目を集めている。血液のがんの一種を対象にした治験では1回の点滴で7~9割の患者で体内からがん細胞がなくなり、専門家らを驚かせた。価格を約5000万円に定めたことも話題になった。効果も価格も常識破りのがん新治療は、日本でも近く実用化される見通しだ。
2017/12/7 19:42 日本経済新聞 電子版
さいごに
ヘルスケアセクターはETF(VHT)で分散投資を徹底したい
私はバイオテクノロジーの明るい未来を強く信じております。しかし、開発リスクの高さや開発パイプラインの評価の難しさを、ひしひしと感じております。製薬会社の経営陣、あるいは研究開発職の現場社員であっても、正しく評価できないのではないかと思います。それゆえ私は、ヘルスケア関連企業やバイオテクノロジーへの投資を行う場合には、誰であってもVHTなどのセクターETFへの分散投資が最適解であると確信しているのです。
ご覧いただきありがとうございました。
製薬会社のビジネスモデルについては、以下の記事にまとめております。
製薬会社の社員は個別株を推奨せず
VHT, XLV, IXJの比較は、以下の記事にまとめております。
ヘルスケアセクターETFを比較...保有銘柄と経費率でみる