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【ABBV】株価急落:遂にヒュミラが喰われ始めたアッヴィの絶望と希望



2018年4Q決算を受けて急落

アッヴィに立ちはだかる壁

HIRA (@Open_JP) と申します。

私はヘルスケアセクターに従事しておりますので、IRに関しても基礎知識や業界用語に理解があることから、平均以上には読めている方だろうとの自負がありますので、今回は4Q18年決算を受けて急落したアッヴィ(ABBV)についてコメントしたいと思います。

アッヴィは米国株投資家の間で人気銘柄のようですね。ただ売上規模としてはシャイアーを買収した武田薬品工業と同水準ですので、グローバルファーマの末席が正しい表現かと思います。あくまで挑戦者です。今の株価は成長を見込んでいることになります。よって成長イメージが揺らいだとき、アッヴィは間違いなく厳しい立場に立たされるでしょう。それが本決算でした。



アッヴィの"絶望"

欧州のヒュミラが崩れていく

医薬品企業の決算を見るとき…私は個別株を扱いませんが…各製品売上の推移は要チェックかと思います。これは医薬品市場が疾患領域で完全に独立しているからです。それはブランド価値でも同様です。また各国における承認状況によっても異なるため、国別・地域別の視点も大事となります。一方、基本的には景気の変動を一切受けないため、市況を反映した素直なトレンドを描きます。それゆえ、製品売上に異常が見られた場合、これは大きなシグナルとなるのです。

今回の決算はヒュミラが未達でした。
このインパクトは大きいと思います。

4Q売上高 83.1億ドル(予想83.8億)
Humira 49.2億ドル(予想50億)
Imbruvica 10.1億ドル
Mav​​yret 8.62億ドル

ヒュミラは、世界で最も売れている医療用医薬品であり、アッヴィがアボット・ラボラトリーズからスピンアウトして以降、同社最大の収入源であり続け、売上高の約60%を占めています。これは自己免疫疾患に類する病気に用いられるバイオ医薬品であり、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患など対し、世界中で使われています。

今回の未達要因は、欧州市場におけるバイオシミラーの侵食に他なりません。これは不可逆的な変化です。欧州でバイオシミラーが10月中旬より発売され、一気にヒュミラを喰いました。この四半期で約15%の売上減です。もう戻りません。バイオシミラーの製造販売元はアムジェン、ノバルティス、バイオジェンといったメガファーマです。彼らは販路も備えています。

アッヴィはパテントクリフに入ったのです。

アッヴィCEOであるRichard Gonzalezは、ヒュミラの2019年の売上は米国で10億ドル増加するが、海外市場で20億ドル減少すると述べました。つまり、ヒュミラの成長はピークアウトしたと考えられます。いかに減少を食い止めるか。食い止める間に次の製品をヒュミラクラスまで成長させられるだろうか。2019年以降の成長に黄色信号が灯ったといっても過言ではありません。



アッヴィの"希望"

成長ドライバー

ジョンソン&ジョンソン(ヤンセンファーマ)と提携しているイムブルビカ(B細胞性腫瘍の治療に用いられる抗がん剤)の売上高は、2018年の36億ドルに対し、2019年は44億ドルに達すると予想されています。またマヴィレット(C型肝炎治療薬)は急速に浸透し、世界シェア50%を超える状況となってきました。これらが直近の成長ドライバーとなります。ヒュミラに比して補助エンジンと表現せざるを得ない程度の売上ではありますが、ここで補うしかありません。

とはいえ、ヒュミラの4Q海外売上高は14.8%減の約13億ドルでしたので、欧州市場のヒュミラが息絶えてしまったら、他製品でカバーできる状況ではありません。不幸中の幸いにも、アッヴィの最大市場である米国では2023年までヒュミラのバイオシミラーの襲来は予想されておりません。これはアムジェンやマイランを含む競合他社との一連の和平契約によるものです。しかし、欧州市場は国家財政の問題もあり、一気に侵食されるでしょう。まさに予想された危機です。

期待の新薬

しかし希望はあります。アッヴィの近い未来は開発中の2つの新薬に託されています。株主の方はご存知でしょう(もし初めて耳にされた様な状況でしたら、製薬企業の個別株をオススメできません。主な学会情報は常に把握しなければならないセクターだからです。決算以上に株価が動きますから)。

risankizumab
ABBV-066(リサンキズマブ)

upadacitinib
ABT-494(ウパダシチニブ)

いずれもアッヴィが社運を賭けて開発している待望の新薬です。日本国内でも新興バイオが吹き上がったりしますが、アッヴィも規模が大きいだけで本質的には同じビシネスモデルをしています。まさに賭けです。私は製薬企業の個別株を推奨しておりません。ただ、それだけの大きな期待がこの2つの新薬には込められています。これを待つ患者さんも世界中にいるでしょう。

一言で述べると、いずれもヒュミラから置き換えたい新薬です。①リサンキズマブは乾癬や炎症性腸疾患に対する注射薬として、②ウパダシチニブは関節リウマチやアトピー性皮膚炎、乾癬、炎症性腸疾患に対する経口薬として、世界中で治験や承認申請が進められており、進捗が早い地域では、今年にも上市する見込みです。しかし競合環境は激化しております。

したがって、成長ドライバーを眺めつつ、ヒュミラの侵食に注意を払い、期待の新薬の市場導入に想いを馳せる。2019年、アッヴィに向き合う株主の心境はこういったところでしょうか。

ご覧頂きありがとうございました。