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【TUR】トルコショックを鑑みて海外ETFを活用したトルコ株式への投資を考える



トルコショックは投資機会だろうか

個人的な投資判断に関する考察

HIRA (@Open_JP) と申します。

昨年2018年の夏に報じられた経済ニュースとしてトルコショックの話は記憶に新しいかと思います。ご存知の通り、2018年8月10日、トルコの通貨リラが対ドル相場で1日で2割近く急落した事から始まる経済混乱です。主因は米国人牧師の解放を巡って起きた米国とトルコの関係悪化であり、トランプ政権がトルコへの経済制裁を発動したことがトリガーといわれております。

したがって、両国間の外交的な問題が解決すれば、トルコショックの原疾患が取り除かれることになりますので、投資を検討する場合には、この状況は改善され得るのか、それはいつ改善されるのか、改善しても後遺症を残さないのか、これらを考える事になるでしょうか。

つまり、短期保有なら「悪いものが普通になる」際のギャップを取りにいく事になるでしょう。さらに長期保有なら、トルコ経済と属する企業の発展まで期待する事になります。普段、地域単位の海外ETF(VTI + VEA + VWO)で投資する自分にとり、国別ETFオーバーウエイトする事となります。結論として、短期と長期、双方の視点での目論見に納得できない限り、国別ETFは投資できないと感じました。トルコ株式への投資に関し、考えた事を備忘録として纏めます。



考えたこと(1)

トルコ株式はアプローチ可能か

本来、新興国は投資アプローチが難しく、流動性などの追加リスクを伴います。さらに個人投資家にとり、投資アイディアはあっても実現不可能もしくは高コストでリターンが期待できない状況がしばしば存在します。まずは投資の可否を判断することが合理的です。そもそも出来ない事の実行を検討する時間ほど、勿体無い時間はありません。

ちなみに蛇足ですが、今回のトルコショックでも流動性リスクが顕在化しました。私たちは投資を行う際、経費率や税金など数字に表せる分かりやすいものに固執しがちです。投資は俯瞰して物事を考えなければならないという教訓を再認識させる一件だったと思います。私は、世界最大の株式市場であるニューヨーク証券取引所に上場する、巨艦ETFをベースとした海外ETF投資を、今後も金融資産の中軸としていきたいとの思いを新たにしました。

「トルコの通貨や債券の売買が困難で、必要な取引ができない」。大和証券投資信託委託や三菱UFJ国際投信は、リラ建て債券で運用する投信の購入と解約申し込みを一時停止した。リラ急落の影響でトルコの金融市場が混乱し、売買注文を出しても取引が成立しにくくなっているためだ。
(日本経済新聞 電子版 2018/8/16)

手段は海外ETFのTURが有望か

さてトルコ株式への投資を検討したところ、米国のナスダックに上場している海外ETFの「iシェアーズ MSCI トルコ ETF」がツールとして有望と考えられました。文字通り、トルコの株式全般で構成されるインデックスと同等の投資成果を目指す海外ETFであり、50程度の銘柄より構成されています。経費率(Expense Ratio)も0.59%と許容範囲内です。よって、私のメイン口座であるSBI証券でも取り扱っている海外ETFTURを用いる事で、トルコ株式への投資は可能と判断できました。



考えたこと(2)

トルコ株式は割安か

さて、例によって現在のトルコ株式のバリュエーションをみていきたいと思います。いつものツールである Asset Allocation Interactive を用いてCAPEを、ETF.com を用いて他の株式指標をチェックしてみました。

Asset Allocation Interactive
過去の CAPE(シラーPER)の分布を調べたいとき(世界の株式市場)


ご覧の通り、トルコ株式TURの連動対象であるMSCI Turkey)は、CAPEが8.3、パーセンタイルが下位10%と低値であることから、他の国と比較した場合でも、トルコの時系列で比較した場合でも、割安である事が分かります。さらに本サイトのデータは2019年2月末のものであり、3月24日現在のTURの市場価格で補正するとCAPEは7.2となりました。トルコ株式のCAPE中央値は11.8ですので、時系列で見る場合でも0.61倍ですから割安であると考えられます。

また ETF.com より、3月24日現在においてPER6.03、PBR1.10、Dividend Yield 4.09%である事が分かりました。ここでPERの逆数株式益回りですので、試しに求めてみると16.58%となります。この解釈は難しいなと思いました。2019年3月時点の政策金利24.00%であるからです。

インフレの嵐

トルコショックの前、2015年から2017年あたりは政策金利7.5-8.0%でしたので、今まさにインフレの嵐が吹き荒れている状況です。この場合、株式のリスクプレミアムはどう考えればいいのでしょうか。インフレの国を考えるならロシアも同様です(政策金利7.75%)。これほど政策金利やインフレ率が上下する経済で、将来のキャッシュフローを正確に測る事も難しいように思います。インフレが将来落ち着く事を期待して投資することになるのでしょうか。危機前の政策金利である8.00%まで下がると考えるならば、なるほどリターンの皮算用は出来そうです。

ちなみに Asset Allocation Interactive に備えられているCAPEから算出するモデルによると、今後10年間の予測実質リターン(米ドルベース)の中央値は年12.7%と高値を示しております。ただ私自身このモデルの中身を知らないので、いつも参考程度に眺めるだけに止めております。

確かに、歴史的に割安な状況が出来上がりつつありますので、平均回帰の魔法を信じた投資を行なうなら、絶妙なタイミングかもしれません。ただしインフレの嵐は肝を冷やします。不確実性は明らかに増します。適正な資産配分が求められて然るべきでしょうか。



考えたこと(3)

トルコの経済は期待できるか

米国と対立し中銀にも介入するエルドアン大統領のリスクを抱え、現在はインフレの嵐が吹き荒れるトルコですが、経済成長の潜在力は光るものがあると考えられます。

ヒトの観点では、すなわち将来予測が可能な経済指標の人口ですが、若い世代に恵まれ、先進国のように高齢化に悩まされることはなく、綺麗なピラミッド構造を示しています。下のグラフはトルコ当局のサイトにて作成したものです。実質GDP成長、65歳以上の人口比率、15歳以下の人口比率、人口増加率を示しております。トルコ統計局によると、人口は2023年には8,690万人を超え、人口増加の勢いは2069年まで続き、そのピーク人口は1億760万人とされています。この頃には日本の総人口を越えるでしょうか。内需の拡大は間違いなさそうです。



イスタンブール新空港

モノとカネの観点では、2018年秋に開港したばかりのイスタンブール新空港があります。既存のアタテュルク国際空港から2019年内に移転予定とされており、将来、世界最大の空港となる事を目指して建設が進む巨大インフラであり、2028年に完成予定の国際空港です。地政学的に不安定な地域ではありますが、欧州、ロシア、中央アジア、そしてフロンティアとされるアフリカの中心に位置するトルコ最大の都市イスタンブールは、交易とビジネスの中心地となり、世界の経済発展とアフリカの爆発的成長の恩恵を受ける可能性があります。




ローザンヌ条約の密約

番外編としてローザンヌ条約について触れたいと思います。これは第一次世界大戦の連合軍と元オスマン帝国の間で1923年に調印された条約です。批准書が正式にパリで寄託された1924年8月6日に条約が発効しました。

この条約により、西欧諸国が条約で定めたトルコ国境に基づきトルコ共和国を主権国家として認める代償として、広大な元オスマン帝国領を放棄することとなります。この条約も今の中東問題(シリア・イラク・クルド人自治区)につながる重要な歴史ですが、ここでは割愛します。

ここで取り上げたいのは、ローザンヌ条約には明文化されていない密約があるという都市伝説です。一言で述べると「トルコは今後100年間、地下資源の開発を行わない」という約束です。なぜトルコには原油がないのか。近隣には原油産出国が集中しています。この根拠とされる話が、開発が出来ない、ローザンヌ条約の密約にあるというウワサがあるのです。都市伝説とはいえ…例えば黒海における資源開発が積極化したら…面白い話になりそうです。



考えたこと(4)

トルコにはどの様な企業があるか

最後にTURを構成する企業群にフォーカスを当ててみたいと思います。MSCI Turkeyは伝統的な時価総額加重平均のインデックスですので、上位から累計80%となるところまでを目処に1社ずつIR情報を覗いてみました。英語の資料もありました。なんと僅か18社です。これは米国株のセクターETFよりも集中度が高いかもしれません。正直少し気になった点ではあります。

MSCI Turkeyの上位80%をみる
2019/3/21現在

さて18社の詳細全てのレビューしますと記事が長くなってしますので、各社のIR情報をみての私のメモ書きを一覧したいと思います。これは完全に私の備忘録です。

(1)TURKIYE GARANTI BANKASI A
比率:9.91% 金融
メモ:商業銀行。スペイン第2位の銀行グループ BBVA が筆頭株主で株式49.85%を保有。トルコ・オランダ・ドイツ・ルーマニア・ロシア・ルクセンブルグ・マルタ・バーレーンで事業を展開する。

(2)AKBANK A
比率:8.66% 金融
メモ:大手民間銀行。サバンジュ財閥の一角。(SABANCI HDが40%超を保有)

(3)TURKIYE PETROL RAFINERILERI A
比率:8.35% エネルギー
メモ:トルコ最大の石油精製会社。国内の石油製品の精製と貯蔵を独占。イズミット・イズミル・クルックカレ・バットマンで4つの製油所を運営。石油製品の輸出入も手掛ける。

(4)BIM BIRLESIK MAGAZALAR A
比率:7.45% 生活必需品
メモ:食料品や消費財を提供するディスカウント店チェーンを経営。トルコ6672店舗、モロッコ442店舗、エジプト300店舗を展開。プライベートブランド商品の比率が高い。

(5)TURKCELL ILETISIM HIZMETLERI A
比率:6.50% 通信
メモ:トルコ最大の携帯電話事業者。国内外で通信と情報技術に関するサービスを手掛ける。主にスマートフォンアプリを通じたデジタルサービスに注力している。

(6)KOC HOLDING A
比率:6.50% 資本財・サービス
メモ:トルコの大手コングロマリット(財閥)。エネルギー、自動車、耐久消費財、ファイナンスなどの事業に出資する。

(7)EREGLI DEMIR VE CELIK FABRIKALARI
比率:4.54% 素材
メモ:トルコ最大の鉄鋼会社。国内シェア25%を単独で占める。冷・熱延鉄板とブリキ板の製造を手掛ける。製品は自動車、パイプ、家電、圧縮容器、機械などの製造業で使用され、先進国が主な販売先である。

(8)TURKIYE IS BANKASI C
比率:4.45% 金融
メモ:大手民間銀行。約40%の株式を同社企業年金(現役の従業員と退職者)が保有。

(9)HACI OMER SABANCI HOLDING A
比率:3.5% 金融
メモ:サバンジュ財閥の持ち株会社(53.9%保有)。自動車、セメント、エネルギー(発電・配電事業)、小売、保険、繊維、タイヤ、ホテル、タバコ

(10)ASELSAN ELEKTRONIK SANAYI VE TICAR
比率:3.48% 資本財・サービス
メモ:トルコ軍基金によって設立。軍用および産業用の最新の電子システムを製造する。通信・マイクロエレクトロニクス/ガイダンス・電磁波システム・電力工学・電子保護システム・航空管制塔・空対地無線・ナイトビジョンゴーグル・レーザー照準機・高速道路料金収集システム。

(11)TURK HAVA YOLLARI AO A
比率:3.46% 資本財・サービス
メモ:トルコ航空。国内外の旅客および貨物の航空輸送サービスおよび航空機の技術保守サービスを提供。国内および中東、北米、欧州、アジア、南北アフリカで事業を展開する。

(12)TEKFEN HOLDING A
比率:2.37% 資本財・サービス
メモ:金融持株会社。銀行業務、 金融商品取引、証券仲介サービス等の金融サービスを提供するが、発電、空港、石油、道路などの建設、農業、不動産など他業種への投資も行う。

(13)TURKIYE HALK BANKASI A
比率:2.07% 金融
メモ:中小企業や個人事業主への貸付を専門とする銀行。政府系ファンド(SWF)が株式50%強を保有。

(14)ANADOLU EFES BIRACILIK VE MALT SAN
比率:1.91% 生活必需品
メモ:ビール・麦芽飲料およびノンアルコール飲料の製造、瓶詰め、マーケティング、流通、販売を行なう食品会社。トルコ、ロシア、CIS 諸国、欧州南東部諸国、中東各国で販売する。

(15)TURKIYE SISE VE CAM FABRIKALARI A
比率:1.90% 資本財・サービス
メモ:ガラス(板ガラス・ガラス包装)と化学薬品(ソーダ灰・クロム化学品)の製造。

(16)TAV HAVALIMANLARI HOLDING A
比率:1.89% 資本財・サービス
メモ:トルコ、ジョージア、マケドニア、チュニジア等の国際空港におけるターミナル事業、ケータリング事業、免税事業等。

(17)PETKIM PETROKIMYA HOLDING A
比率:1.78% 素材
メモ:低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、純テレフタル酸を製造する石油化学会社。

(18)ARCELIK A
比率:1.68% 一般消費財・サービス
メモ:耐久消費財や家電製品(白物家電・家庭用電化製品)を製造する家電メーカー。「Arcelik」 および 「Beko」 のブランド製品をトルコ国内で販売するほか、欧州大陸諸国、英国、チュニジア 向けに輸出する。


所感

さてどうしようか

今回の記事では、週末に私が収集したトルコに関する情報を列記してみました。正直に申し上げますと、まだトルコ株式に対する投資判断は出来ておりません。頭の整理のために記事に纏めた側面もあります。それゆえ、長い纏まりのない記事となってしまいました。

ただ、急ぐ必要はないかな、まだ早いかなというのも正直な感想です。これは上記18社の財務情報を一覧しての感想です。まだ2018年通期は赤字じゃないんです。むしろ過去3年間バリバリ稼いできた企業ばかりです。しかし2018年4Qで多くの会社が急減速しており、続く2019年1Qの決算はこれからとなります。おそらく赤字決算が出始めるでしょう。本格的にこれからトルコ経済はリセッションを迎えるのではないかと私には思えたのです。総悲観で買いたいですよね。

したがって、世界経済のトレンドに注視しつつ、トルコ上位18社における決算を眺めつつ、トランプ大統領とエルドアン大統領の駆け引きを括目する。こんなイメージが出来つつあります。

また投資サイズは、実行したとしてもポートフォリオの5-10%の間となる見込みです。非常にスパイスの効いた投資となるため、これ以上のオーバーウエイトはギャンブル性を伴うとも考えます。実際に、上述の銀行は格付けがジャンク級となっているものもあります。もちろん家族に対するインフォームドコンセントも大事になってくるでしょう。

まだ情報不足ですが「株式市場は見逃し三振のない野球だ」と彼の賢人も仰っておりますので、高リスクゆえ慎重に進めていきたいと思います。ご覧いただきありがとうございました。

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