年利回りは金融商品共通の尺度
実質リターン、名目リターン、インフレ率を知る
HIRA (@Open_JP) と申します。
今回の記事では、年利回りの考え方を、もう少し深く理解していきたいと思います。
最後まで読んでいただければ、実質リターン、名目リターン、インフレーション、この3つの用語の関係が、ご理解いただけるんじゃないかなと思います。小難しい用語が出てきてしまいますが、意外とカンタンなものです。
その年利回りは本当か
デフレ社会で麻痺した感覚
株式。債券。定期預金。現金。これらの伝統的な金融商品は、シンプルで分かりやすいため、リターン、リスク、その特徴を理解して比べることは、決して難しくありません。最近の日本国内であれば、先の記事のように年利回りを求めることで、保険も含めて、たいていの金融商品は平等に比較をして、その優劣を判断できることでしょう。
しかし、注意が必要です。ここ最近の私達が生きている時代は、偶然にも「失われた20年」ともいわれる、バブル崩壊後から続く経済の停滞期であり、デフレであったからです。
デフレ環境下では、金融商品のパンフレットに書かれている数字、みかけの年利回り(名目リターン)で比較しても、大きな誤りを生じませんでした。そもそも、2018年現在、アラサーより若い世代は、インフレを身近な事象として、経験していないかもしれません。
警鐘!旧世代を真似ること
(これは話の本筋から外れますが、私は恐ろしいことだと思っています。お手本となる親世代と経済環境が全く違うため、パーソナルファイナンスに関する助言が全く参考にならないのです。馬鹿正直に信じてはいけません)(大学を卒業し、会社に勤め、貯金をしながら、結婚して、子育てをして、マイホームを買って、子供を大学に送って、会社員人生をリタイアして、老後を迎える)
(この旧時代の生き方ではマズいと思います。もしかすると、《地獄》を歩むだけの人生になってしまうかもしれません。日本の現在と未来を、私は悲観視しております。自己責任の厳しい社会が予見されています)
インフレの感覚を知っていますか?
つまり、デフレこそ異常なのです。グローバル化が進み、国際分散投資がスマホでもカンタンにできるようになった今だからこそ、国家間の違いを、忘れないことが重要です。国際分散投資は、紛れもなく国境をまたぐ活動です。私も国際分散投資を行っておりますが、その対象国は、米国、欧州、日本、韓国、香港、中国、台湾、インド、南アフリカ、ブラジル、メキシコ、マレーシア、ロシア…と多岐に渡ります。
これらの国々に本社を持つ約10,000社にインデックスファンドを通じた投資を行っておりますが、各国の状況は当然、異なります。経済規模(GDP)が異なります。法定通貨の間には為替レートがあります。
そして…資本主義社会を生きる私達が、最も注意しなければならない経済指標。インフレ率が、違うのです。デフレ環境下で麻痺してしまった、あるいは経験したことのない、インフレーションに対する知識と感覚を、思い出さねばなりません。
世界の多くの国では、インフレ環境下にあるからです。
インフレーションって?
インフレ=お金の希釈度
なぜ私達は、インフレ、インフレーションに、気をつけなければならないのでしょうか。それは、インフレーションを分かりやすく表現をすると、お金が"薄まっていく"程度を示す指標といえるからです。お金持ち、すなわち資本家が投資をする理由。その答えは、十中八九、インフレーションに対する防衛策だろうと私は思っております。
インフレーションから自分の資産を守る手段は、投資しかありません。インフレーションについて、教科書的な具体例をお示しましょう。
(1)りんご100円 >> りんご120円
インフレーションが起こっている社会を考えます。りんごの価格が上がっており、その上昇率は20%です(1)。
これを逆に考えます。100円で購入できるりんごの量の変化です。カンタンな計算ですが、買えるりんごは減ります。その減少率は-20%です(2)。
(2)りんご 1個 >> りんご 4/5個
私達はモノの世界に生きている
そもそも、私達が生活している世界は、モノの世界です。朝飯を食べて、電車に乗って、文房具やPCを使って仕事して、家に帰ってお酒を飲んで、布団で寝て、休日は旅行に行く。モノやサービスを受け取ることで、価値を享受するのです。お金を受け取った時、例えば給料日に、働いた分の価値を受け取るわけではありません(多少テンションは騰がるでしょうが)。
お金は、一時的に"価値を貯蔵している"だけで、モノやサービスを購入したときに、私たちははじめて価値を享受できます。
お金の価値、モノの価値。購買力とは?
しかし、注意しなければなりません。お金とモノのレート(比、割合)は、りんごの例のように変動しているのです。多くの社会ではインフレーションによって、お金の価値が低下していきます。(ここでいうお金の価値は、モノを買う資力のことであり、購買力といわれております)
私達にとっての "本当の損失" とは、通帳に印字されている "お金の数字" が減ることではなく、自分の資産で "買えるモノやサービスの量" (購買力)が減ることです。
多くの消費者は、銀行の通帳、スーパーマーケットの野菜の価格、そこに書かれている"数字"に基づいた行動をとってしまいます。人々は、そこに書かれた貨幣額に基づいて行動を決定する傾向があり、本来の判断基準とすべき購買力を軽視してしまいます(多くの日本人には知識すらないかもしれません)。これをアーヴィング・フィッシャー(Fisher, Irving, 1867-1947)は貨幣錯覚と名付けました。投資家たるもの、まずここから脱却しなければなりません。
実質リターンを知りたい
みかけの数字にはインフレ率が含まれている
インフレーションが起こっている社会では、モノの価格が上がっていき、購買力が低下していきます。多くの先進国では緩やかなインフレーションが見られますし、日銀も物価目標として"2%上昇"という明確な数値を掲げています。(日銀は苦戦しております。課題は多いようです。ただし実現すれば、購買力が毎年2%も減少していく社会に変化するということです。具体的な防衛策は思い浮かぶでしょうか。今から備えをしておかなければなりません。誰も教えてくれない、自己責任の問題です)。
インフレーションが起こっている社会で投資活動を行う場合、ある一定期間で増加する金額(名目リターン)が、①インフレーションによるものなのか、②投資活動によるものなのか、区別できません。これらの総和になっています。
それゆえ、①インフレーションによる物価上昇分を引いて、本当の年利回り=実質リターン(モノやサービスを基準に、正味どれだけ増えたのか)を計算する必要があります。
高金利商品の罠?
したがって、金融商品を年利回りに揃えて比較する際には、インフレ率で補正するということを忘れてはなりません。特に、新興国や発展途上国では、通貨が安定していないため、インフレ率が比較的高く、高金利な債券が多く見られます。トルコリラ建、ブラジルレアル建。そして、外貨建の貯蓄性保険。金利が高くて当然です。だって、インフレーションが起こっている社会、その通貨なのですから。
今後の日本が、インフレーションに突入する可能性も存在します。そのときには、日本国内でも同様に考えなければなりません。
インフレーションによって購買力が低下していく通貨は、長期の為替レートによって均質化されるといわれております(参考:購買力平価、purchasing power parity、PPP)。したがって、国際分散投資を行う際には、インフレ率で補正し、年利回りを実質リターンで考える、と頭に入れておきたいものです。
インフレ率で補正するには?
インフレ率を調べよう
名目リターンは、みかけのリターンですから、金融商品に書かれている数字をそのまま用いればいいのです。例えば、トルコリラ建債券、年利回り10%とあれば、10%の数字を用います。
債券や定期預金で年利回りとして記載されている数字は、名目リターンです。したがって、トルコのインフレ率がわかれば、実質リターンを求めることが出来ます。
一例として、以下のサイトをオススメ致します。金融危機のときに国家を救うこともあり、たびたびニュースに名前の上がる国際機関、IMF(国際通貨基金)のホームページです。
http://www.imf.org/external/index.htmIMF(国際通貨基金)のホームページには、様々な経済指標が公表されており、その中にWorld Economic Outlookというデータセットがあります。綺麗な図で、グラフを作成して出力することも可能です。国別にソートしたり、参照することもできます。国際分散投資を行っている方にとっては、どの指標も興味津々に眺めてしまうものばかりだと思います。
Inflation rate, average consumer prices Annual percent change
Inflation rate, end of period consumer prices Annual percent changeインフレに関して上記の2項目があります。年平均と期末の2種類ですが、これらがインフレ率です。多くの場合は、各国の消費者物価指数(CPI)が用いられます。消費者にとっての物価がどれだけ変化しているか、を示した指標です。
日銀も「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」として、消費者物価の分析データを公表しています。ちなみにトルコは…インフレ率9.3%、9.5%…こういうことですね。
さいごに
インフレーションは、一般市民のお金が薄まる現象
以上のように、インフレ率で補正することで、各金融商品について、実質リターンを求めることが出来ます。また、インフレ率で補正するという考え方が知識として備わっていれば、アベノミクスで語られる物価目標2%、米国におけるFRBの利上げ観測と米国債の金利上昇、これらがなぜニュースでよく語られているのか、その重要性が理解できます。
しかし、多くの一般市民は、"スルー"していることでしょう。思いのほか、生活と資産に影響するにもかかわらず。愚かなり。
インフレに対する防衛策は必須
お察しの通り、現金は、インフレーションに対して、全く耐性を持ちません。債券も、定期預金も、固定金利のものは、同様です。インフレ耐性を持つ金融資産の代名詞は、株式です。実は、一般的に語られる株式の年利回りである6%は、実質リターンを示しております。
したがってインフレ率が名目リターンに上乗せされるのです。あるいは、モノである現物資産、つまり、不動産や金を保有することが、インフレに対する防衛策といえるでしょうか。
いずれにしても、インフレーションに対する防衛策を学んでおくことは、《インフレーションや金利をコントロールする側》の思惑に嵌らないために大事になるでしょう。
日本では、金融が義務教育には組み入れられていないため、多くの一般市民に知識が不足しております。資本主義社会で騙されないための知識です。
インフレーションが起こると、市民のお金が減り、国の借金が減ります。したがって、増税と同じ効果が見えてきます。お金持ちは税金にうるさい。同様にインフレーションにも敏感なのです。無知なまま騙されないよう、大事な自分の資産を守るために、勉強していきたいものです。
ご覧いただきありがとうございました。