モメンタムはあまねく存在する
MSCI コクサイ(kokusai)indexで検証してみた
HIRA (@Open_JP) と申します。今回の記事では、世界のあらゆる市場・あらゆる時代に普遍的に存在してきたモメンタムについて簡単に述べた上で、国内の投資信託でよく用いられる外国株式のインデックス MSCI Kokusai Index における絶対モメンタムのパフォーマンスについてご紹介したいと思います。
米国で出版される投資関連書籍の邦訳は今も限られている訳ですが、その中でも比較的新しく、かつ話題を呼んだものが「ウォール街のモメンタムウォーカー」です。本書籍を参考にして私が自作した図表をご提示しつつ、解説したいと思います。
ただし、はじめにお断りしておきたいのですが、私自身の投資(つまり本音)は、以下にまとめた通り、バイ・アンド・ホールドを大原則とした海外ETF投資であり、買付時にバリューを勘案するスタイルであるということです。この立場にありながらも、モメンタムは、今を生きる市場参加者が学ぶべき、重要な要素だと感じたところです。
投資方針をまとめております。
私の投資
「モメンタム」とは?
効率的市場仮説は、徐々に影響力を失ってきた
この書籍の Preface は、以下の文章から始まります。
「バイ・アンド・ホールドはもう機能しない。ボラティリティが大きすぎるのだ。どんな資産もいつ突然リスクが上昇するか分からない」「リスクを抑えるのに分散化だけではもう不十分だ。リスクをうまく管理する何か他の手立てが必要だ。」
1970年代中ごろ効率的市場仮説が一世を風靡します。いまから半世紀近くも昔ですね。ご存知の通り、一言で言えば株価は全ての情報をすでに織り込んでいるとする仮説です。
本邦投資家の間では未だ常識のように扱われがちですが、もちろんモデルのひとつに過ぎません。徐々に「でも実際のマーケットは違うよね」と経験的な知見との差異が研究されるようになります。
そして1990年頃より注目を集めた行動経済学は、「市場はいつも効率的とはいえない」とする学説であり、2017年、行動経済学の権威であるシカゴ大学のリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことは記憶に新しいです。2002年ダニエル・カーネマン氏、2013年イェール大学のロバート・シラー教授も行動経済学の業績でノーベル賞を受賞されています。
バークシャーの司令塔であるウォーレン・バフェット氏も有名な手紙でこのように語ります(1988年)「効率的市場仮説が学者だけでなく、投資のプロや機関投資家たちからも受け入れられているのは素晴らしいことだ。市場が往々にして効率的であることを観察した彼らは、市場は常に効率的であると結論づけた。この違いは夜と昼ほどの違いがある」
モメンタムが近代金融学を席巻する
近代金融学において効率的市場仮説が影響力を落とす一方、ここ20年間で最も研究されたテーマで、今なお勢力を拡大しているものがモメンタムです。普遍的に観測されるアノマリー(効率的市場仮説と矛盾するような金融市場の価格およびリターンのねじれ現象)のひとつであり、発見されているなかで最強のアノマリーといわれています。効率的市場仮説の創始者であるユージーン・ファーマとケネス・フレンチも「トップレベルのアノマリー」と認めたほどです。
モメンタムとパフォーマンス
モメンタムはしばしば運動量と和訳されます。投資においてはパフォーマンスが継続することを示唆するもので、2018年現在のAmazonのように上がり続けるものは上がり続け、パフォーマンスが悪い投資は悪いままというのです。驚くべきことに、モメンタムは過去200年ほぼ全てのアセットクラスに観測されています。モメンタムが普遍的に「なぜ機能するのか」を説明する学派は2つに大別され…難しい解説は省きますが(書籍参照)…ひとつは行動経済学すなわち行動バイアスとする説であり、もうひとつが未発見のリスクファクターがあるとする説です。
以下にモメンタムを応用したアルゴリズムとして本書に例示されているGEM(グローバル・エクイティ・モメンタム)のフローチャートを示します。過去1年のパフォーマンスの正負をみる絶対モメンタムと、相対的に優れているアセットを選ぶ相対モメンタムを、組み合わせた簡単な方法です。GEMのパフォーマンスは著者のページで更新され続けています。S&P500をアウトパフォームする素晴らしい成績です。
MSCI Kokusai Index における絶対モメンタム
目的
モメンタムが過去200年ほぼ全てのアセットクラスにおいて観測されるのであれば、私たち日本人投資家が用いる外国株式の投資信託、つまり MSCI Kokusai Index(円建、配当込)にも応用できるのではないか。これが本検証のきっかけです。複数のアセットクラスを織り込んだ検証も興味深いですが、まずはアルゴリズムの導入が現実的な水準で誰でも簡単にできる絶対モメンタムについて調べてみました。
対象と方法
国内で広く使用される外国株式のインデックス MSCI Kokusai Index(円建、配当込)をベンチマークとする投資信託の基準価額データを活用し、絶対モメンタムのバックテストを行ないました。対象とした投資信託は、基準価額データが豊富にある、確定拠出年金用ファンドの DIAM 外国株式インデックスファンド<DC年金>(アセットマネジメントOne株式会社)です。純資産は約1,500億円、信託報酬は 0.27%(2018年9月時点)でした。バックテスト期間は2003年11月17日から2018年9月14日までの約15年です。期間中に月1回…毎月15日に絶対モメンタムの判定を行いました。実際の投資信託での運用を再現するため、約定日は2営業日後とし、若干のラグを加味しました。
ルックバック期間はエビデンスが多い12ヶ月に設定しました。すなわち、1年前の基準価額と比してパフォーマンスの正負を判定し、正であれば投資信託を保有、負であれば預金を保有します。つまり保有継続の場合もあればアセットクラスをスイッチする場合もあるということです。
また開始金額を10万円とし、対照にバイ・アンド・ホールドを設定しました。
結果
ご覧の通り、絶対モメンタムは MSCI Kokusai Index(円建、配当込)においても下方リスクを大幅に減少させることが認められました。特筆すべきは、2008年のリーマンショック、2015年のチャイナショックを回避できているという事実です。
絶対モメンタムにおける取引回数は15年間で10回でした。預金への避難は5回あったことになります。ここにリーマンショックとチャイナショックの2回が含まれていることになります。
なお、いずれも15年の長期投資の成果が現れており、絶対モメンタムとバイ・アンド・ホールドの双方において、評価額は30万円を超えております。
考察
絶対モメンタムは下方リスクを大幅に減少させることが認められました。投資で評価すべきはリスクであることは周知の事実です。リターンはリスク調整されるべきだからです。なぜなら、低リスクのものはレバレッジをかけることが合理的とされるからです。個人投資家においても、下方リスクが小さいのであれば、現金や債券の比率を下げ、より多くのリスク資産を保有し、リターンを狙うことが出来るようになります。
絶対モメンタムの下方リスクが真に小さいならば、開始金額を均等に10万円とすべきでなく、例えば絶対モメンタムは15万円に増額できるかもしれません。もちろんリターンは1.5倍になります。これはアセットクラス間の逆相関を活用してリスクを下げ、レバレッジをかけるポートフォリオの考え方と同様です。
ただし絶対モメンタムだけでは課題が残ることも分かります。今回のバックテストでは、基準価額の上昇を上手く捉えることができませんでした。特に急激に基準価額が回復した状況、特にチャイナショック後の上昇局面においては顕著です。ここが改善されば大幅なパフォーマンス改善が望めます。今後の検討に期待です。今アイディアを温めております。
ご覧いただきありがとうございました。